楽天グループ株式会社 コマースカンパニー マーケットプレイス事業 楽天市場企画部 ヴァイスジェネラルマネージャー 海老名雅貴氏
2024年7月、「楽天市場」で「配送品質向上制度」がスタートする。同制度が始まると、一定の配送条件を満たす商品には「配送認定ラベル」が付与されるという。ユーザーにとってより便利で使いやすくなることが期待されるが、出店店舗の一部からは新たな制度に身構える声も聞かれる。今回の制度導入で楽天は何を目指し、どのような改革を進めていくのか──。楽天グループ株式会社の海老名雅貴氏に、制度の概要や出店店舗が得られるメリット、楽天側の支援策・サポート体制などについて話を聞いた。
“ユーザーファースト”を追い求めた、配送サービスの品質向上のための制度
──「配送品質向上制度」の概要について教えてください。
顧客満足度や配送の“わかりやすさ”を改善するための取り組みの一つで、当社が定めた配送品質を満たす商品に対して「配送認定ラベル」を付与する制度です。商品ページには配送の最短指定可能日が表示され、ユーザーは自身の都合に合わせて受取日が選択できるようになります。ラベルの有無は、検索順位を決める要素の一つに含める予定です。
──「配送認定ラベル」を取得するには、どのような条件を満たせばよいのでしょうか。
認定基準は「店舗基準」と「商品基準」の二つ。
店舗基準は「納期遵守率96%以上」「6日以内のお届け件数比率80%以上」「出荷件数が月100件以上」「共通の送料込みラインの導入」です。
商品基準は「年末年始/月1回の休業日を除き毎日出荷可能」「午前の注文は翌日届け可、午後の注文は翌々日届け可」「日付指定可能」が条件です。これら双方の基準を満たす商品に「配送認定ラベル」が付与されます。
──認定基準はどのようなプロセスで決定したのですか。
2023年1月の「楽天新春カンファレンス」で新制度を発表しましたが、そこから約半年かけて2,000を超える出店店舗様と対話を重ねてきました。その結果、例えばオーダー品など、商品の性質上6日以内にお届けできないものはお届け件数比率の計算において対象外とさせていただくこととなりました。出荷に関しては年末年始と月1回の休業日を認めたり、土日祝日は注文の締め切りを午前9時に前倒しにしたりするなど、現場の声を活かしながら基準をブラッシュアップしてきました。
──発表時に比べると条件は緩和されたと思いますが、それでも出店店舗への負担は少なくはないですよね。
この制度は、結果的に出店店舗様の売り上げ増加につながっていくと考えています。確かにオペレーションの負荷やリソース不足を懸念する声があることは事実ですが、より快適なショッピング体験をユーザーに提供し、「楽天市場」が今後も選ばれ続ける売り場になることが、出店店舗様の成長には必要です。その観点において、配送サービスの品質向上は必要不可欠であると考えています。出店店舗様のお声を頂戴し、可能な限り寄り添いながら、「楽天市場」を成長させ、出店店舗様の成長に還元していくことが私たちのミッションだと考えています。
出店店舗に寄り添う充実のサポート
──出店店舗がこの制度に取り組む具体的なメリットについて教えてください。
「配送認定ラベル」がつけば、ユーザーは商品受取の選択肢が多いアイテムをより見つけやすくなります。また、詳細は検討中ですが、「配送認定ラベル」の有無を検索順位決定の一要素に含める形を検討しています。ラベルが付いた商品は検索の上位に表示されやすくなり、ユーザーに認識してもらえる機会が増える可能性があります。商品の指定日配送注文が遅延した場合でも、ユーザーには「楽天あんしんショッピングサービス」として5%ポイントバックの補償を行います。このお詫びポイントは、基本的には楽天からユーザーへ付与を行います。万が一の際にも店舗様に負担をお掛けしない形を考えています。
このように、新制度に取り組むにあたり、店舗様によっては、土日出荷対応などで業務負荷をおかけすることになりますが、楽天からもご協力いただいた企業が報われるような形でバックアップして参ります。
──ただ、認定基準を見るとハードルは決して低くありません。楽天として具体的にどのような支援策をお考えですか。
大きくは4点あります。①配送認定に向けたオンラインコンテンツの充実、②相談窓口の設置、③「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」における物流支援、④受注管理の自動化支援サービス(BOSS)の提供といったソフト面、ハード面、双方からの支援を考えています。
①配送認定に向けたオンラインコンテンツは、チェックシートで自社の配送課題を確認できる「配送認定ラベルNAVI」をご用意しました。これはオンライン上でいくつかの質問に答えていただくと、商品基準達成のための課題が可視化できるツールです。ここで浮き彫りになった課題は、「楽天大学」内のeラーニングサービスで学んでいただけます。認定基準を満たすために必要なナレッジやノウハウを、他店舗の成功事例などから学習できる機会を設けます。
また、定期的なオンライン説明会の開催に加えて、②物流に特化した相談窓口も開設しました。365日出荷体制などに関するご相談に対して、当社の物流コンサルタントが課題整理と解決策のご提案をさせていただいています。窓口は以下のURLからアクセスいただくか、「店舗運営Navi」より「物流相談窓口」と検索していただけますと幸いです。
──出店店舗はこの365日出荷にどのように対応するべきなのでしょうか。
必ずしも自社ですべて対応する必要はありませんし、外部への物流委託で出荷体制を整えられる出店店舗様もいらっしゃいます。
当社でも、③「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」で商品の入荷作業から保管、発送といった物流業務の効率化を支援しています。また、「楽天市場」と提携している④受注管理システム「BOSS」と連携すれば、土日祝日を含めた365日自動で受注処理に対応できるようになります。店舗様は土日の作業を行わずに、「配送認定ラベル」の商品基準を満たすことができます。
運用に合わせてスモールスタートでOK
──支援体制がしっかり整っている点は、出店店舗にとっては心強いですね。
店舗様からもそのようなお声をいただいています。当社としても、すべての商品で「配送認定ラベル」の取得を推奨しているわけではありません。例えば、一部の売れ筋商品だけをRSLに預けて優先的にラベルを取得したり、商品の仕様や買い合わせを考慮してラベル取得の順番を決めたり、まずは自社にあった形でスモールスタートする選択肢も提案しています。
──全商品「配送認定ラベル」を取得しなくてもいい、となると、確かに始めやすそうです。
様々な出店店舗様がいらっしゃる中、お悩みも多様化していると思います。ラベル取得の認定基準をクリアするためには、様々な工夫の余地があると考えていますので、まずはお気軽にご相談いただきたいですね。
──今回の「配送品質向上制度」導入を踏まえ、今後の展望や計画についてお聞かせください。
「楽天市場」の年間流通総額は5.6兆円(2022年)を超え、すでに社会インフラに近い存在です。誰もが使いやすいサービスの提供を目指す中で、「配送品質向上制度」は送料・納期のわかりやすさと、ユーザーの配送日時指定の自由度を向上させることを目的としています。また今後は「置き配」など、ユーザーが受け取りたい場所で自由に荷物を受け取れるような施策も検討中です。
今回の制度導入はスピード配送だけを求めていると誤解されがちですが、私たちが重視しているのはユーザーの選択肢を増やし、ユーザーにより多くのベネフィットを提供することで、「楽天市場」の集客力をさらに向上させ、ひいては店舗さんへより多くの利益を還元していくことに他なりません。「楽天市場」がより便利で使いやすいショッピングモールになるよう、本施策の導入に向けて、出店店舗様とともに準備を進めていければと思います。